以前にインタビューをさせていただいた「暮らすトコロマーケット」実行委員長の岡田一さんから、「会ってみるといいよ」と紹介をされた角田テルノさん。同マーケットの副委員長を勤めるほか、西所沢で倉庫を改装した店舗「C.V.C.モール」(以下、CVC)を経営するなど、所沢を拠点に多方面で活動しているらしい。「埼玉県全63市町村のキーマン」(熊谷圏オーガニックフェス製作)に所沢市のキーマンとして登場するなど、市外でも知られた存在だ。
今回は西所沢のCVCに伺い、角田さんのプロジェクトと、西埼玉のポテンシャルについて話を聞いた。
−まず、ここCVCについて伺えますか?
角田:
CVCとは「craft」「vintage」「creative」の略で、手作りのクラフトや古道具などの個人店が集まったショッピングモールのようなところです。
建物内の区画を月単位で貸していて、レジは1箇所。僕たちが販売業務を行うので、普段は本業や家事のある人でも、気軽に出店できるような仕組みになっています。
−なぜ、CVCを始めようと思われたのですか?
角田:
所沢に住んでいても雑貨屋がない、というユーザーとしての不満が背景の一つです。たとえば、友達やお世話になっている人の誕生日にプレゼントを買おうと思っても、センスのいいものを買う場所が少ない。
また、ここを始める前におもちゃ屋をやっていたんですが、所沢って家賃が高くて小売店を続けるにはハードルが高いという状況もありました。僕の周りにも「いつかお店やりたい!」と夢を語る人がいて、どうやったらそれを実現できるかと考えた時に、「お店の長屋」だなって考えたんです。
−この場所は、どうやって見つけたんですか?
角田:
僕は古物業もやっていて、最初は自分が集めた商品を置くために倉庫が必要で、不動産をやっている知り合いと物件を探していたんですね。交渉していた物件がNGになって、落胆しつつうどん屋さんで昼食を食べていたら、たまたま居合わせた彼の知り合いが「物件探しているんだったら知ってるところありますよ」って紹介してくれたんです。
僕たちが借りる前は、自動販売機の倉庫兼営業所だったらしいんですけど、広さも十分でしたし、ずっと考えていたショッピングモールをやるにもちょうどいい場所だなって思ったんです。うどん屋での出会いが、2017年の2月で、8月にはプレオープンを迎えていました。
−なかなかのスピード感ですね。
角田:
この場所は「SAVE AREA」と名付けたんですが、CVCはまだその第1段階なんです。3階にはいくつか部屋があって、和室は鍼灸をやっている方などに貸していますし、12月にオープンした「SPACE FORREST」では、料理も出来る多目的スペースとして、ご飯やワークショップができる空間です。C.V.C.モールが第1弾でSPACE FORRESTが第2弾。全部で第5弾くらいまで展開するつもりでいます。
いろんな特技や夢を持つ人たちが、まずは気軽に自分の事業を始められる場所、妄想を形にできる場所として育てていこうとしています。
−次に所沢神明社で開催されている「宵の市」について教えてください。
角田:
8月7日の旧暦の七夕に開催している「縁日」です。半分は物販、半分は食べ物という構成ですね。
−はじめた経緯は?
角田:
初年度は2017年でしたが、神社で骨董市ができたらいいな、と考えていたんです。そんなことを知人に話していたら、その中に神明社とつながりのある駄菓子屋の子がいて、彼女と一緒に神明社さんと打ち合わせをすることになったんですね。
僕たちは「神社で何かやりたい」というふわっとした状態だったのですが、神明社さんから「七夕祭りと同じ日に使っていない敷地でやらないか」とご提案いただいたんです。そこで祭りといえば縁日だろう、ということでまずは始めてみた感じです。
−私(オオタケ)は、平日だったので行けなかったですが、駅にポスターが貼ってあったのは拝見しました。デザイン性がある、というか、所沢でも若い人向けのものができたんだなと、印象に残っています。
角田:
デザインのディティールにはこだわりましたね。ポスターもそうですし、会場のテントなどの装飾も。ただし、コンセプトは「誰でも参加できる地元のお祭り」ということでゆるーい感じにしたんです。
僕は所沢市内の出身ですが、毎年夏には地域の商店街でお祭りがあったんですね。そこには、地域のおっさんたちが道端にブルーシートを敷いて「今夜は無礼講」ってノリでお酒を飲んでいるような光景がありました。それが、自分にとっての街の原体験で、「宵の市」で再現したかったんです。
それから、所沢はベットタウンで地域に愛着の薄い人も多い。それだけに、大人になって地域を出た人たちが、「その日くらいは地元に帰るか」と足を向ける機会を作れたらいいなと思っています。
−精力的に活動をされている角田さんですが、ご経歴を伺えますか?
角田:
専門学校を出た後、フリーターを経由して3年ほどは会社員として働いていました。その当時からお店の長屋のようなものをやりたくて、古民家のリノベーションで場所を作れないか動いていました。現代は大きな会社に属するのではなく個人の集合体として仕事をする時代で、個人として生きる人たちがいい意味で群れる仕組みを作ろうという考えでした。
ただ、複数のお店をやるという条件で古民家を貸してくれるところが見つからなくて、まずは自分のお店を始めちゃおうということで、脱サラしておもちゃ屋を始めました。
−場所は所沢で?
角田:
所沢駅の近く、プロペ通りを一本入ったところにあるビルの2階です。マニアックなおもちゃを集めて売っていて、海外からもお客さんに来ていただけるようなお店でした。2011年に初めて、2017年の手前までやっていましたから6年ですか。2017年に店を閉じた後は、店舗を持たずに古物商をやったりして、2018年からはCVCを中心に働いている感じですね。
−おもちゃ屋を閉じたのはなぜなんでしょう?
角田:
おもちゃ屋だけでも生きていられるのはわかったけれど、頭打ち感がありまして。もっと無限の可能性があることに挑戦したいと思ったのと、なにか街のことをやりたいな、と思ったからですね。
地元が好きだからという理由ではなく、自分のいる場所を良くしていこう、地元から出て行くにしても地元に貢献してからじゃないとな、という思いからでした。
−所沢のいいところと悪いところは?
角田:
良くも悪くも中途半端なところです。都会でもなければ田舎でもない、郊外特有のちょうど良い人の距離感がありますよね。ムラの近い距離感でもなければ都会ほど冷たくもない。ライフスタイルにしても、強くこだわっているわけでもないし、何もこだわりがないわけでもない。それが、心地よいというか、ラクなんじゃないでしょうか。
それから、町のカラーがあると、それ以外の人を受け入れない空気になってしまうんですよね。例えば、有機農業のメッカのような町では、有機じゃない人は近よりいくい。
−いろんな価値観を包摂する余裕があると。
角田:
価値観というのは一人の人間の中にも並存しているもので、僕だって野菜食べて健康的だなって喜んだ次の日に、どうしてもハンバーガーが食べたくなってマクドナルドに行くようなことがあります(笑)。それが許されるのが、居心地の良さじゃないでしょうか。
−所沢に近隣の狭山・入間・飯能を加えた「西埼玉」4市としてみれば、70万人を超えるボリュームがあるわけですよね。これだけの規模であれば、いろんな価値観の人間がいるのも頷けますし、市場としてのパイもそれなりにあるのではないかと思います。そんな地域で、角田さんの事業の未来像は?
角田:
西埼玉でマジョリティにならずとも、自分たちの価値観がわかる数%の人たちに向けて誇りになるものを作っていければいいと思っています。SAVE AREAは人間交差点。面白い人と繋がる場所として育てていきたいですね。
−角田さんご自身は、どんな人と繋がっていきたいですか?
角田:
種を播いて水を注ぐ役回りができる人です。森ができてから動く人は多いと思うのですが、この地域では、まずは何もないところから育てていかなければなりません。ですから、10年20年先までを見て今動ける人がいいですね。
それから、自分の生活をキープした上で献身的なプレーができる人。自分のやりたいことを直ぐに形にしたい人はこれまでもいたんですが、そういう人は川越とか東京とかに行っちゃうので。
−やりたいことが明確な人ほど、この街に残らない。所沢の課題ですよね。
角田:
SAVE AREA 自体が、ここで何かやりたい人たちにやらせちゃう場所であろうと思っています。夢はあるけどどうしようか悩んでいる人たちの、夢の具現化を手伝いたい。
そういうことを起こすためにも、まずはこの先3年間ほどかけて、「SAVE AREA」と「宵の市」、それから実行委員会副委員長として関わっている「暮らすトコロマーケット」の3つを、丁寧に作っていきたいです。
【編集後記】
いろいろな人と繋がれる気さくな人柄、利益や体裁よりも前に「面白さ」に価値を置いている点、そんなところが角田さんの魅力だと思う。80年代生まれの価値観で地域を面白く変えようとしている人。いや、すでに変えるための行動を行なっている人。「所沢で価値観の合う人はいないのか」とずっと求めて来たけれど、この街で旗を掲げる同志を見つけた、そんな感動をもった取材だった。ちょっと先を越された感もあるけれど(笑)。
ちなみに岡田さんに紹介をいただいた際、「角田」という名字と出身地から、私(オオタケ)の兄の同級生じゃないかと思っていたが、会って話してみるとやはりその人だった。子ども時代には私の家に遊びに来ていたそうだ。「地域」を活動の場にしているとこういう巡り合わせもある。
(了)