2020年12月1日、映画などを大画面・高音質で楽しめる設備を整えたレンタルスペース「COEDO座」が小江戸・川越の人気観光スポット「菓子屋横丁」の一角にオープンした。「プライベートシアター」と銘打って時間制で個人向けに箱貸しをするスペースだ。
オーナー(座長)の安藤将規さんを知ったきっかけは、川越ゲストハウスChabudaiの西村拓也さんから、映画館のようなスペースを開業する若者がいると紹介を受けたことだった。
オープンから間もない2020年12月上旬、菓子屋横丁の一角にあるCOEDO座を訪ね話を聞いた。浮かび上がってきたのは、趣味の延長で週末の仕事を作る新しい自己実現の姿だった。
−はじめにCOEDO座で出来ることについて教えてください。
安藤:
COEDO座は、友人や家族で貸し切りができる「プライベートシアター」です。2時間半を1単位に予約制で利用いただけます。
ブルーレイディスクを持ち込んでいただければ映画を楽しめますし、アニメやドラマのイッキ観や、コロナ禍で増えた音楽ライブのオンライン配信を楽しむ場としても活用いただけると思います。大画面でゲームをやるのも楽しいですよ。利用法は借りる方のアイデア次第ですね。
−上映設備がしっかりとしている、お金をかけていそうだなとお見受けします。
安藤:
スクリーンは120インチあります。プロジェクターは4K上映に対応しているSONY製で、音響はDolby Atmos(7.1.4ch) による立体音響です。12台のスピーカーによる360°サラウンドシステムなので、かなり臨場感がありますよ。
−デモ映像で体験させていただきましたが、高スペックが売りのシネコンみたいですね。フカフカの座席にもこだわりが?
安藤:
利用時間の2時間30分間まるまる座りっぱなしとなるので、座り心地はこだわりました。3人掛けソファ2つ・2人掛けソファ1つ、最大8名までゆったりご利用いただけます。ちなみに、1・2列目のソファは中目黒にあるローソファ専門店HAREMのものを使用しています。座り心地やデザインが良いことはもちろん、女性でも簡単に取り外しや移動できるので、鑑賞後に向かい合わせにして飲み物を飲みながら語り合うこともできます。
また、映像と音響が良いので少人数で世界の絶景を観ながらヨガをしたいといったご相談もあります。
−次にCOEDO座を作った経緯について伺います。一番最初のきっかけは?
安藤:
プライベートシアターを作ろうと考え始めたのは2年くらい前です。当時から自宅にはホームシアターの設備があって、友人たちを招いて一緒に映像を観る体験をしていたんですね。同じ体験を共有するのが面白かったですし、私と友人との思い出として語れるようになることが魅力でした。大画面で観ることが思い出のスイッチになるというか。それが自分にとっての原体験でした。
−自宅に友達を呼ぶのではなく、いろいろな人が利用できる施設を作ったモチベーションは?
安藤:
1つ目は、プライベートシアターで映画を観る体験の楽しさを多くの人に伝えたいからです。
テレビがまだ珍しかった時代、近所の人がテレビのある家に集まった様子が『ALWAYS 三丁目の夕日』で描かれています。近所の人と一緒にテレビを観た思い出は、当時の人たちにとってかけがえのない思い出になっているんじゃないでしょうか。そんな思い出づくりに貢献したいです。
2つ目は、ホームシアターを持つという夢を自分も含めて実現させたかったからです。
ホームシアターを持つというのは車を持つことと同様に多くの人にとって夢だと思います。ただし、現実的には費用や環境の面で実現させることが難しいです。費用面では、IMAXがプライベートシアターを販売していますが、その価格は4000万円〜というお値段。環境面では、マンションですと近隣の迷惑にならないように音に気を遣わなければなりません。だから、物件を用意して設備を入れてハイスペックなスペースをつくろうと。
−お住まいは川崎市とのことですが、なぜ川越を選んだのでしょうか?
安藤:
2019年の7月から物件を探し始めたのですが、当時は川越以外にも候補地がいくつかありました。なかでも川越は、隣の狭山市に住んでいた妻と結婚前によくデートした思い出の街だったんです。とはいえ、川越に人のつながりはなかったので、出会いを求めてゲストハウスChabudaiに行ってみたんですね。そうしたら、オーナーの西村さんを始め面白い方々が集まっていて、こんな街で自分も活動したいと思うようになりました。
−川越の魅力ってどんなところにあると思いますか?
安藤:
Chabudaiふくめ、人との距離感が近くて人の温かみを感じるお店が多いことです。街のお惣菜屋さんも焼きそば屋さんも、すごくフランクに話しかけてくれます。チェーン店のように画一的ではない、人の存在を感じます。
それから、新しいことを始めやすいことも魅力の一つだと思います。川越は、由緒ある伝統的で趣のある街ですが、新しい業態のお店や取り組みが増えてきており、Chabudai(古民家カフェ×宿)を筆頭に、ここ和(ココア専門店×宿)、ゆきき(リラクゼーションサロン×宿)、最明寺(LGBTフレンドリー)、COFFEE POST(コーヒー屋台)、COFFEE GALALLY(ロースタリーカフェ)といったお店があり、面白い場所がここまで密集している街は都内でもないと思います。
−こちらの物件を借りることになった経緯は?
安藤:
1年くらい川越で物件を探していたのですが、前の店舗が撤退して不動産仲介サイトに掲載されているのを見つけたんです。菓子屋横丁に面していますが、路地奥に入り口のある2階ということもあってか手の届く家賃で出ていました。
−COEDO座は土日の営業で、平日は会社員として働かれているそうですが、どんなお仕事をされているのですか?
安藤:
BtoBでメーカーの営業をしています。いま30歳ですが、新卒で入社した会社で働いています。
−独立開業ではなく、会社員として働き続けている理由は?
安藤:
「リスクを抑えて自分のやりたい仕事をやるには?」とずっと考えていて、始めたのがCOEDO座でした。会社員としての仕事はこれからも続けて、こういう働き方があるんだと多くの人に知ってもらえたらいいですね。私は「副業」ではなく「福業」だと考えていて、COEDO座は、収入だけではない幸福を感じられる仕事だと思います。
−会社の仕事は、楽しくできてますか?
安藤:
楽しさで言ったら断然COEDO座ですが(笑)、本業は本業でやりがいを持って働いています。会社には事前に話してあって、本業に支障がなければ副業を認める姿勢でいてくれています。
−最後に、今後取り組んでいきたいことをお聞かせください。
安藤:
COEDO座はレンタルが主のスペースですが、自分でイベントも企画していきます。私は映画を観て感想を語り合うのが好きで、映画を介してコミュニケーションをとること自体に価値を感じています。集まった人同士が語れる形の上映会ができたらいいですね。学生時代にバックパック旅をしていろんな人と交流した経験が影響しているかもしれません。
それから、観光地としての川越のことも調べていて、多くのお店が午後4時で閉店してしまっていることを知りました。それが日帰り観光地としての景色ですが、夜や早朝にしか味わえない街の景色もあるので、ナイトタイムでCOEDO座を使ったあとゲストハウスに泊まるなど、川越を訪れる人たちに住むように街の魅力を味ってもらう旅の形を提案していければと思っています。
お店を作ると聞くと、それはもう大きなチャレンジのように感じることはないだろうか。業種によって金額は変われど設備投資は必要だし家賃などの維持費もかかる。借入を返済し維持をするために集客に胃が痛い思いをする・・・ということはCOEDO座には当てはまらないらしい。
安藤さんの話を聞いて思ったのは「好きなことを仕事にする」のは、実は簡単なのではないかということだ。収入は別にキープしながら、個人でできる範囲のことをミニマムにやってみる。会社員としての本業が楽しくてできていて、自分の個人事業とも両立できるのであれば、望ましい働き方だ。
挑戦したいことがあって一念発起して起業する人もいる。その一方で、暮らしのバランスの中で自己実現の割合を高めるような起業があってもいい。本人がどうしたいのか、やりたいことがなにかによってスタイルは変わる。全員に共通する答えはなく、ひとりひとり答えは違う。その辺りを冷静にみられるのも、ミレニアル世代ならではの特徴なのかもしれない。